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NOTICE PC PS 2019/03/19 17:20

北の太陽


マーティンは冷や汗をかいて目を覚ました。
彼がこのような夢を見たのは久方ぶりのことである。 生い茂った牧草地に、白装束を着た男が歩いている。そして振り返り、マーティンの目をじっと見つめると、まるでいつも通りといった様子で叫ぶ。
「フランダースを探せ!」 マーティンは、白装束の男の手に触れようとするが、景色──そこは恐らく男の言う"フランダース"であろう──と共に彼はまた消え去る。現実に引き戻されるように。

誰かが激しく扉を叩いた。
「誰だ……?」
ドアが軋む音と共に開く。
「ここで何があったんだ!?」
それはアウグストゥスの声だった。
マーティンは旧友であるアウグストゥスの方に頭を向けながら、寝返りを打った。そして、これが、クネヒトのリーダーである彼の目を覚まさせた。
「マーティン……?」
マーティンは周りを見渡した。そこには、彼が泊まったモーテルとは思えない景色が広がっていた。家具は粉々に粉砕され、壁は焦げており、全てのガラスは割れている。煙の臭いも漂っていた。
「大丈夫だ。心配ない」
「何があったんだ?」
アウグストゥスは彼の横に座る。
「フランダースだよアウグストゥス。フランダース」
「どこだって?」
マーティンは、夢の全容を思い出そうとした。草や、動物、水、空に昇る太陽……低い位置にある太陽、北の太陽……いつも通りだ。
「方角は、北北東だ」
アウグストゥスはうなずくと、立ち上がり、扉の方へと向かった。そして扉に辿り着く前に立ち止まり、振り返った。
「俺はこれをずっと待っていた」
マーティンはうなずいた。
アウグストゥスは微笑み、扉から出て行った。外から彼の声が聞こえる。夜明けまでにクネヒトが出発の準備を整えるであろう事がマーティンにもわかった。
渇きという死の足枷に繋がれた人々が住む領域──乾燥地帯──を今にも壊れそうなトラクターがゆっくりと進む。
デュークというニックネームで呼ばれている彼らの「マスター」はレアなスペアパーツを集める趣味を持っていた。暇な時間に手下を付き添わせ、周りの地域を旅して集めたコレクションを、古城の中で腰を下ろしながら眺めて過ごしている。

デュークにはたった一回の一斉射撃で十分だった。
彼の手下は戦おうともしなかった。彼らのリーダーが倒されるのを見て、彼らは尻尾を巻いてさっさと逃げて行った。
「少なくとも素晴らしい戦利品を手に入れることができた。人々を自由にすることもできたしな。」
マーティンは首を横に振った。彼は床に座り、ちっぽけな独裁者の王座であったデュークの椅子の後ろにもたれかかった。
僅かな光で暗闇の中を灯そうとする旧時代の石油ランプが近くに置かれていた。
「ここはフランダースじゃない」
アウグストゥスは、マーティンの横に腰を下ろし、不満げに言う。
「マーティン……フランダースが特定の場所じゃないって可能性を考慮したことはあるか?実在する場所じゃないかもしれないぞ?何かの目的を示唆したものとか……」
マーティンは何も答えなかった。ランプの光を見て、そして、窓を見た。丸焦げになった枝が揺れているのが見える。
アウグストゥスは、そっとため息をつき、目を閉じ、うたた寝をしていた。

「アウグストゥス……」
「……何だ?」
ランプはとっくに切れてしまっていたようだ。灯りが消え、部屋中に広がってしまった寒さにアウグストゥスは震え、完全に目を覚ました。
「谷に戻ろう。お前の言う通りだ、アウグストゥス。俺たちには素晴らしい戦利品がある。俺たちに今必要なものは、補給物資と、新しいクネヒトだ」
「そしてフランダースか……?」
マーティンは立ち上がり、微笑んでいるようだった。
「ああ、まだ探し続けるさ」




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