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NOTICE PC PS 2018/11/09 16:30

逃亡者


手を後ろで縛られた男が椅子に座っていた。
容態が良くないように見える、服はズタボロに破け血や埃や汗で汚れきっている。
長く脂ぎった髪、泥で汚れた顔、目の下のあざ。まるで、ねじられて壊れ、捨てられた人形のようだった。
たった一つ、荒野の放浪者にそぐわないのは、やつの目だ。
会話中にふと頭を持ち上げたやつの目を見て、無意識にたじろいだ。
ほとんどが黒目の底なしの闇のような目は、言いようのない恐怖を感じた…
いや、これは狂気だろうか。

ルパートは深くため息をついた。尋問なんてまともにやったことがなかったからだ。
そもそもこの居住地の保安官(この肩書はどこからきたのだろうか)という肩書は持っているが、
彼の仕事は捜査等ではない。しかし、地域の警備と緊急時の対応という義務が彼を尋問へと縛り付けた。
『CROSSOUT』以前の旧世界では、人々から必要不可欠な情報を「引き出す」方法を長年に渡り学んだ、
特別な人々によって尋問が行われていたことを、彼は知っていた。
残念なことに、ルパートの居住地にはそんなスキルを持った人間は誰もおらず、結局の所、保安官の彼の仕事なのだ。

— では、簡単な質問から始めよう。もう一度聞く。名前は?
囚人は唇をゆがめ身震いした。
— 何でオレを捕まえた?俺がお前に何をした?
オレは今すぐに行かないといけないんだ。わかるか?
頼むからオレに構わないでくれ!
興奮が混じったトランプルの声が響き渡る。

ルパートは困り果てた。
このボロボロの人形のような男は、西へ5日ほど行った所にある、友好的な人々の集落をよろよろと彷徨っていた。
パトロールを見たトランプルはとっさに逃げようとした。しかし、満身創痍の彼には足を引きずることすらできず、
近づくパトロールからかれは逃げようと、道の近くにある丘を登ろうとしたが力尽き滑り落ちた。
パトロールの男によると、トランプルを車両に乗せようとした時、
彼は「やめてくれ」「殺すなら殺してくれ」と言いながら泣きわめいたそうだ。
ルパートは、パトロールの男たちがこの狂ったろくでなしを開放しても理解できた。
頭のイカれた奴らが世界中に何人放浪しているなんてことは誰が知るか?
しかし集落の人々からは一週間も、何の知らせもないのだ。それどころか人間一人おらず、車すらも見当たらない。
集落と賑わう交易路があるわけでもないが、誰もいないというこの状況は、確かに何か意味があるはず。
ルパートはトランプルがなにか知っているはずだと一縷の望みをかけた。
しかし現実では、いや、厳密に言うと新世界では、望みなど裏切られるものである。

トランプルは暫くの間、居住地の狂悪犯用の監房として使用されていた、錆びたコンテナの角に隠れていた。
ただ座り、風に吹かれた葉っぱのように震えて、あたかも何かを待っているかのように。
そして、彼らが悪意ある人間ではないと理解したのか、少しリラックスしたようだ。
しかし、何を話しても最後には同じ言葉を言うのである。
「行かないといけないんだ。行かせてくれ」。ルパートはこの言葉にうんざりした。
結局の所、彼はこの小さな居住地のただの保安官でしかなく、何らかの名声がある尋問官ではないのだから。

—振出しに戻るとしよう。
ルパートは慎重に言った。トランプルに口を割らせる良い方法が思い浮かばなかった彼だが、ふとアイディアが浮かんだ。
—良いか、よく聞け。お前が俺の質問にきちんと答えて、居住地で何を見たか吐かないかぎり、どこにも行かせない。絶対にだ。
お前を監獄に入れ、この荒廃した世界が旧世界のように復活するまで、その中で延々と座り続けることになるぞ。

それを聞いて、椅子から転げ落ちそうになるトランプル。
彼は再び震えだし、慌てた様子で周囲を見回し、立ち上がろうとした。
しかし、プラスチックの紐で両手を椅子に結ばれていたことを忘れていた。
今まで以上の狂気がトランプルの目に満ち、そして彼は話し始めた。

—そんなに知りたいのか?わかった、話す、話すさ。
—それで、名前は・・・?
—俺の名前はどうでもいい!聞け、保安官、聞いてくれ。奴らは隣人のところへやってきた。コレクターだ。
—コレクターだな、わかった。それで奴らは何を集めるんだ?
—人だ。奴らは夜にやって来て、居住地を囲むんだ。抵抗しようとする人は、その場で殺された。
そして奴らはトラックの中に人々を引きずり込み始めたんだ。それから、連れ去られた人々は……何もかも失ったんだ!
抜け殻、人形、虚無!動き、歩き、息をし、食べる、でもこの抜け殻には人間の何もかもが残ってなかったんだ。
わかるか?!全員だ!全ての住人はただの何も考えられない人形になっちまったんだ!そのまま彼らは全員連れ去られた!
ルパートは彼の一言一言にうんざりし、この男が狂っていることに気づいた。
— ああ、わかったよ。つまりコレクターたちは人々を連れ去り、そして・・・人形に変えた、そうだろ?
— そうだ!
— じゃあ、君はどうやって逃れたんだ?
この拘束者は、プラスチック製の拘束バンドが許す限り、椅子の上で前かがみになった。
— オレは腰抜けだ。走ったんだ。奴らがオレの家に来た時、隠れた。妻や娘を連れ去るのを聞いた。叫ぶのも聞いた。
そして、オレは奴らを見たんだ!オレがお前を見ているように、奴らを見た!オレは何もない場所にいたかのように、
あたかも存在していなかったかのように、奴らはオレを認識せず、気づかなかった!
奴らは顔に何の表情も浮かべず、愚かな動物のように手探りだった!オレは奴らに向かって叫び、奴らを呼んだ!
— それで、何が起こったんだ?
— コレクターたちがバンに全員を乗せた後、彼らの存在はなくなったようだった。彼らはただ・・・忘れられたんだ。
人々を抜け殻に変えたそれらは、その場所に立っていた、何もせずに。
そして・・・そして何かが起こったんだ、何も見えていないが。誰かが誤って誰かを殴り、人々は叫び始めた。
ケンカが始まったんだ、完璧な「ブロウル」さ。口から泡を吐きながらお互いにぶつかり、お互いに細かく裂き始めたんだ。
ルパートはため息をついた。すべてが出まかせのように聞こえ始めた。
—それで、どれくらい続いたんだ?
すると拘束者は床に固定された椅子の金属でできた脚と共に飛び上がり、壊した。
トランプルは彼の頭でルパートの腹を打つほど近づいたが、保安官は身をかわし、その狂人は床に倒れた。
そして倒れた場所から叫び続けた。
— 奴らのほとんどが死ぬまで!生き残った人々が逃げ、錆びたギアのようにわめく!奴らは同時に笑い、泣いていた!

保安官は、拘束者のゆがんだ顔を恐ろしそうに見つめ、彼が叫ぶたびに口から唾液が飛び出すのを見た。
「トランプルは完全にいかれてしまった。あと少ししたら、コイツの口は泡を吹き始めるだろう」と、彼は遅ればせながら思った。
ルパートは守衛を呼び、拘束者は独房へと引きずられていった。保安官の代理人が部屋に入ってきた。
—それで、彼は話したのか?
居住地の自衛軍の代表はいら立ちをぶつけた。
— サイコめ。知性や魂を盗む一部のコレクターについて話した・・・。狂人だ。
しかし、一週間も周辺からの便りがない。明日、車両を準備する。行って調べてみよう。
代理人は頷いた。

***

その夜は風が強かった。居住地を取り巻く丘陵地帯により熱せられた風に伴い砂が吹き荒れ、パラパラと舞った。
このシフトに任命された欠片の石で出来た壁上の衛兵は、運命を呪うことしかできなかった。

西からきた車両はほとんど音を立てなかった。貨物室に何でも隠すことが出来そうな巨大バンだ。
それらは異常で、奇妙で、車体の異なる形や外殻などの、ほとんどの部品が荒野で見られるものとは異なっていた。
まるで人間の手によって作られた車両ではないかのように・・・もしくは人間とは呼べないものに。
新世界の通常の車両と比較すると、それらは何かが完全に異質なものを装備していた。

衛兵たちは何が直撃したのかさえ分からなかった。
消音の銃撃で、うめき声が消された、誰も壁にある警報を鳴らすことができなかった。
コレクターのバンが近づいてきていた。

トランプルは古い海軍のコンテナから独房の中に急いで入った。
尋問中に何とかしてワイヤーの一部を盗み、即興で作ったロックピックで必死に鍵を開けようとした。
彼は、コレクターが近づいているのを感じていた。ヤツらが来ている。すぐそこまで。
そのため、彼は逃げなければならなかった。素早く、そして静かに、前みたいに。
この居住地が、しばらくコレクターを足止めできることだろう。
朝までには、ここにいるすべての者が抜け殻となるだろう。そして彼は遠くに行くのだ。

鍵がカチッとなり、独房が開いた。
彼は、コレクターが近づいているのを感じていた。ヤツらが来ている。すぐそこまで。
居住地の門はコレクターのバンの衝撃により崩壊してしまった。
彼は、コレクターが近づいているのを感じていた。ヤツらが来ている。すぐそこまで。
トランプルは音のほうに目を向け、素早く立ち去った。
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